税理士資格を取得し独立を考えている方は多くいらっしゃると思います。ただ、難しい試験をクリアして独立すれば安定した収入が保証されていた昔と違い、今は税理士資格を持っているだけでは差別化を図ることが難しくなってきています。ここでは、税理士業界の動向を把握し、独立開業を成功させるためのポイントをご紹介します。

毎年増加している税理士登録者数

国税庁の発表によると税理士の税理士試験受験者数は毎年減少しているにもかかわらず、税理士登録者数は毎年増加傾向にあり令和元年現在で78,795人になっています。

平成27(2015)年度75,643人
平成28(2016)年度76,493人
平成29(2017)年度77,327人
平成30(2018)年度78,028人
令和元(2019)年度78,795人

税理士登録者数の推移

増加率はそこまで大きくないものの受験者数の減少とは反対に登録者数が増加していることを違和感を感じる方もいるかもしれません。これは税理士試験に合格する以外にも税理士になるための方法がいくつか用意されていることが要因の1つだと考えられます。

大学院を卒業したり税務署や国税に一定期間勤めることで試験を免除する仕組みがあり、また弁護士や会計士などの他士業も税理士登録をすることができるため、そういった受験者以外の登録が増えていることで受験者数は減っていても税理士の数は増加傾向にあるということです。

加速する高齢化

試験受験者が減少していることに加え、税務署等に長年勤務した後に試験免除で税理士登録をするケースが多いこと、資格に定年がなく自らやめるまでは税理士を続けられることなどから、税理士業界は高齢化が加速していると言われています。

日税連が公表している資料によると年齢層では60歳代以上が半数以上を占めており、税理士業界は一般的な企業と比べて相当高齢化が進んでいることがわかります。平均年齢も50歳代~60歳代であり、20歳代~30歳代の少なさが目立っています。

20歳代0.6%(187人)
30歳代10.3%(3,358人)
40歳代17.1%(5,599人)
50歳代17.8%(5,817人)
60歳代30.1%(9,868人)
70歳代13.3%(4,343人)
80歳代10.4%(3,421人)
税理士の年齢層(平成26年現在)

変化する市場と激化する競争

税理士の数が増え続けていることだけでなく、主な顧問先である中小企業の数が減少傾向であることから、税理士業界では年々競争が激化していると言えるでしょう。ライバルが増え顧客が減少している状況の中では、需要が供給を下回ることで価格競争に陥りがちになります。価格競争から脱却して勝負するためには、同業者との違いを明確にし差別化を図っていかなければなりません。

また、先に述べたとおりIT化が進むことで税理士業界全体が大きく変化することが求められています。日本にそのまま当てはめることはできませんが、IT先進国のエストニアでは政府が電子化政策を推進し税制が簡略化されたことで税理士が行う業務がほとんどなくなったことは広く知られています。

税制の複雑さ人口の違いなどから日本がエストニアと同じになることはないかもしれませんが、それでもAIなどの技術革新が進むことで単純な事務処理については税理士が携わる必要性が低くなってくることは想像に難くありません。税理士という職業はなくならないまでも、税理士に求められる仕事や役割が変化していくことは避けられないでしょう。

独立開業を成功させるためのポイント

税理士業界を取り巻くこれらの様々な要因から、税理士資格を持っているだけでは独立しても昔のようには安定して収益を確保することは難しくなってきています。独立開業を成功させるためには、そういった状況を踏まえてしっかりとした事前準備をしておかなければなりません。

これから税理士が独立開業を成功させるためのポイントとしては、

  • 既存の業務にとらわれず付加価値の高いサービスを提供し差別化すること
  • 安定して集客できる営業の仕組みを構築すること

が挙げられます。

そのためには、ただ税務・会計など業務に明るいだけでなく、マーケティングや営業の知識・スキルを身につけることが必要不可欠です。独立開業を成功させるには、なんとなく開業するのではなく、これら必要な知識・スキルを身につけた上で明確な戦略を立てて事務所経営を行うことが最も重要なポイントになるでしょう。

この記事を書いた人

坂本義和

慶應義塾大学卒業後、起業。3社経営。グループ総計20億円の売上まで成長させる。あわせて自身も士業・コンサルタントとして活躍。就業しながら慶應義塾大学大学院修了。専門は事業戦略とWEBマーケティング。個人としては、士業向けセミナーでは延べ1500名以上の前で登壇、WEBやマーケティング、事業のご相談では500名の士業のご相談に対応する。